むかしむかし
場所
みちのく あだちがはら
ものがたり
あだちがはらの荒野の果て。ひっそりと灯りをともす小さな屋敷。
 その屋敷には老婆のような髪の姫君がおり、どんな者でも迎え入れ、もてなしてくれる。

 道に迷った男たちには、一夜の宴と永遠の眠りを。
 道を失った女たちには、過去も未来もないおだやかな「今」を。

 だがある晩、五人の男が館を訪れ、いくつもの恋と諍いが生まれる。
 おだやかな「今」が揺らぎはじめ、あだちがはらの秘密があばかれる……

 時をこえて出会ってしまった男と女の、月が昇って沈むまでのおはなし。
登場人物
むさし(塩谷伸一)

高校で国語教員をしている。子供の頃、道に迷い、黒塚の館に迷い込んだことがある。その際、白髪の姫さまに助けられた。つまらない人生にうんざりしている。
いずも(岡田むつみ)

黒塚の館に住まう女。京の四条川原で一座を率いていた踊り子なのだが、最愛の恋人を失い、あだちがはらへ。
さゆり(松井美奈子)

黒塚の館に住まう女。会津藩の豪商の娘。小さい頃から一流の先生のもとで様々なお稽古事にはげむ。全てに恵まれて育ったが、事情により、貧乏侍の許婚となったことで、人生を狂わせてしまう。
なでしこ(小山田美沙)

黒塚の館に住まう女。裕福な武家に生まれ、九歳で結婚する。この世で唯一愛している弟は、上皇に仕える北面の武士でありながら、若くして出家。漂白の歌人となった。
まんさく(緑野大地)

会津藩士。嫡男だが、まったく侍らしくなく、女性問題でもめてばかり(しかも、相手はいつも大年増や不美人ばかり)。今回も、それが原因で鬼退治をするはめに。しかしその先で、父の初恋の相手らしき女さゆりに出会う。父と同い年のはずのさゆりは、なぜか自分より若い姿をしていて――
りんどう(松浦克己)

まんさくの異母弟で、母が台所女だったため、兄のまんさくに従者として仕えている。誠実な男だが、大切にしていた妻に突然、離縁された。なぜそんなことになってしまったのか、自分でも分からない。
すおう(井上雄太)

会津藩士。まんさくの異母弟。文武両道の優秀な侍。まんさくの失態のせいで、鬼退治につきあわされるはめに。さゆりが恋した侍に、顔がそっくり。
まつむし(杉山尚子)

黒塚の館に住まう女。山育ちながら、奥ゆかしく、気もよくまわる。典型的な良妻だったが、ある日とつぜん家を飛び出し、あだちがはらへ。
ひぐらし(手呂内康佑)

まつむしを追って来た夫。またぎをしているせいか、極端な口下手。
すずむし(上原朋子)

黒塚の館に住まう女。まつむしの妹。ずっと、ひぐらしに横恋慕している。

姫さま(春日玲)

黒塚の館の主。朗らかで優しい地方豪族の姫君。いつからか髪が真っ白になってしまったか、いつからあだちがはらにいるのか、思い出せない。取り残されることを異様に恐れ、女たちがあだちがはらを離れることを許さない。
夢の影(中野佐知子)

現れては消え、姫さまの心を揺らす、謎の存在。姫さまにしか見えず、姫さまが逃げようとすればするほど、その力を増す。
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