伊藤さやか
『あだちがはら花草子』
脚本・演出
 2003年の旗揚げ公演の再演となる「あだちがはら花草子」。今回伊藤は日本文学史を深く調べ上げ、初演時にはなかった設定を物語に盛り込み、更にロマンをかき立てるものに再構築した。時を超えた臨場感を持って蘇った「あだちがはら」の魅力を訊いた。
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★今回は再演ですが、初演の時、なぜこの物語を書こうと思ったきっかけは何ですか。

初演の時はとにかくお客さん呼ばなきゃと思ってて。完全にオリジナルじゃお客さん来てくれないだろうなと思ったんですよ。観に行こうかどうしようか考えてるお客さんにとって、全くのオリジナル作品のタイトルを観ても、そのお芝居が当たりなのか外れなのか全く予想ができない。なので来る人が安心して「あ、これね。みたいみたい。」と思えるやつがいいと思って。ああ知ってるっていう親近感と、観たことないから観たいっていう興味とのバランスのとれた所を狙おうと思ったんです。そして二つに絞ったのが、能のストーリーの「あだちがはら」と、オペラのストーリーの「フィガロの結婚」。最終的には、当時私の中では「あだちがはら」の方がメジャーだったんで、「フィガロ」はいつの間にかどこかに消えちゃいました(笑)。

★今回初演の時から、だいぶ脚本が変わったようですが、どういう風に変わりましたか。

タイムトラベル的な面白さが加わりました。その面白さを際立たせるために、初演の時は登場しなかった現代人を一人加えました。今回の話の中には五つの時代の人達がいるんですよ。平安初期と平安後期と戦国時代と幕末と現代。再演版の第一稿では、その現代人はいませんでした。でもそれだと、戦国時代の人が鎌倉時代の人を見て古いなあって言うシーンがあるんですが、それが以外と分かりにくかったんです。笑う所なのに笑えなくて。なのでそこに一人現代人を置いたんですよ。そうする事で、平安時代の人を見て「古いなー」って言ってる戦国時代の人に対して、現代人の彼が「いやお前も古いよ!」っていう突込みを入れられるようになって、話がずっと分かりやすくなりました。

★五つの時代の人が登場する中で、ベースの時代はいつですか。

平安初期です。それは、一首の歌から始まってます。
「みちのくの あだちが原の黒塚に 鬼こもれりと 聞くはまことか」
この歌は詠んだのは平兼盛(たいらのかねもり)っていう、とても有名な歌人で三十六家選になっています。この歌は長い間、「みちのくのあだちがはらでは、鬼が出るってほんとうかい?!」っていう怖い歌かと思われてたらしいんですけど、本当は違うんですって。恋の歌なんです。「愛しい人よ、こんなに私の心を悩ませて、君は鬼かい?」っていう(笑)。この歌が詠まれたのが平安初期なんです。そしてその歌を送られた相手は、彼の歌仲間男性の娘さんです。
そこで思ったんです。「おっ。この娘さんを主人公にしたら面白いんじゃないのぉぉ」って。

★今回の登場人物で、伊藤さんと一番重なる役は誰ですか。

自分では「すずむし」が一番近いかなって思ってるんですよね。初演の時もこの人物は登場したんですけど、今回の方が優等生的な感です。初演の時のキャラは、かわいさで戦う人だったんだすが、今回は正論で戦う人です。正しいこと言ってんだけど、まわりをカチンとさせるところもあったりして(笑)。彼女の姉の「まつむし」も正論で戦う人なんですけど、それとは違って正論での戦い方が妹的なんですよ。言いたいことが言えるのも、甘えからっていうのかなぁ。「お姉ちゃまなら何言っても許してくれる」みたいな。

★でも伊藤さん確か一人っ子でしたよね。

はい。兄弟姉妹のいる人の気持ちは分からないとずっと思ってました。でも考えてみたら、結構妹気分は満喫してるなと思うようになりました。年上のキレイな人が好きなんですよ私(笑)。それでついついそういう人が、多い場所へ自分の身を置いてしまうんです。ZaNUKAみたいに(笑)。年上のお姉さんがいたら、どうしても自分は妹分になりますから、実は知らず知らずのうちに、妹気分を満喫してきたんです。

★その妹的な気分が、今回の「すずむし」に似ているんですか。

そうですね。年上に甘える感じが似ていますね。でも一番似ているのは片想いの仕方かな(笑)。ちゃんと告白して、ちゃんと玉砕しない所が似てます。とてもズルっこくて、チャンスを虎視眈々と狙ってるんです。ずっと。どん!とぶつかる勇気がなくて、ライバルとか、相手の男性が弱る隙を狙ってるんですよ。絶対片思いだと分かってるんなら、きっぱり諦めるのも一つ道なんですけど、それもできなくて。ちゃんと振られないから、ちゃんと諦められないんですよ。いつまでも安全な場所で、うろちょろしちゃう。そんな前にも後ろにも行けない感じは、私っぽいかなぁと思うんです。

★今回の公演の魅力のはなんでしょうか。

いろんな恋が出てくるんですよ。片思いも出てくるし、浮気も出てくるし、両想いなのにうまくいかないところもあるし、一目ぼれもあるし。ですので観た人が自分が入り込みやすい恋を選んで、自分を投影してもらえれば嬉しいです。いろんな恋の入口を用意しましたので、どうぞ好きなところから入ってください。そして思う存分この世界に酔いしれてください。
それから今回ダンスが見応えありますよ。とにかく華やかです。妖艶っていうのかなぁ。あと音楽も非常に面白いです。生演奏ですし会津民謡も出てきます。フルートのソロがあって、その元曲は尺八で演奏する会津民謡の曲なんです。どうぞお楽しみください!
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